監督 木村隆一さんインタビュー
丁寧に素敵に描く
難しい運命を抱えた不器用なふたりの恋愛ものであるところですね。一郎は父を亡くし、ひとりで妹と弟の面倒を見ている。しおりは特殊な体質を受け継いでいることで島の人たちの期待を背負っている。ふたりとも自分の望んだわけではない運命を背負っているんです。「運命にどう向き合い、切り開いていくのか?」が大きなテーマになっているところに魅力がある作品だと思います。
「舵取り役」だと考えています。アニメはたくさんの人たちによって作られています。キャラクターをデザインする人、背景を描く人、シナリオを描く人など各々役割を持ったスタッフがいて、同じ原作を見ていても、それぞれが受け取る印象や魅力に感じる部分は細かく違ったりするんですね。そんなたくさんの人たちが同じ方向を向いて作品を作ることができるように、すり合わせをしてうまくひとつの作品になるように舵をとる仕事です。
原作にすでに表現されていることはもちろんですが、隙間を考えていくことも重要です。たとえば「一郎が妹たちに作っているお弁当は作り置きのおかずなのか、スーパーのお惣菜を詰め替えているのか、朝に作っているのか?」というような小さなことが、キャラクターの性格や状況を意外と表したりする。こうしたひとつひとつの認識が違うと、「こういう仕草はこの子はしない」「こういうことは言わない」といったズレが出てきてしまうんですね。小さな隙間を埋めてスタッフで共有することで、みんな違う仕事をしていてもみんなで「同じキャラクター」を作っていける。作り手が共有している部分を増やしていくことは、監督の重要な役割のひとつだと思っています。
日常芝居をなるべく丁寧にすることです。「おとなりに銀河」のキャラクターたちは、ごくごくありふれた日常の世界を生きています。彼らの日常を生きている感じを出せるよう、なるべく自然な芝居を心がけました。
また、背景は基本的にはリアルなんだけど、彼らが生きている世界が魅力的で楽しげに見えるように描いたつもりです。たとえば一郎が住んでいる古びたアパートも、どこか素敵に見えることを目指してデザインしてもらっています。
絵に関するところは、これまで一緒にお仕事をしたことのないスタッフが多かったですね。キャラクターデザインの大滝(那佳)さんは、リアルな人間の体をしっかり意識した上で、原作で雨隠ギド先生が描いている柔らかい雰囲気を出してくださって、すごくいいバランスでデザインをしてくれました。大滝さんが所属する白石スタジオのみなさんとも初めての仕事だったんですが、本当にいいチームで! 上がってきたものを見てちょっと感動しました。
色彩設計の大塚(眞純)さんや、作中2Dデザインとエンディングを担当してくれている小嶋(美幸)さんという、長い付き合いのスタッフさんも参加していて、いつも通りいい仕事をしてくれています。
キャストはみなさん、本当に役に合った方を選べたかなと思っています。特に久我家の3人(一郎・まち・ふみお)としおりは、声も芝居もそれぞれ個性を持っていて、4人の中で被っていない、バランスがいいキャスティングができたんじゃないかなと。
和久井優さんとは以前違う作品でご一緒したことがありますが、久しぶりなのでアフレコのときはなぜか僕の方が若干「頑張らないと……!」と緊張しました(笑)。和久井さん自身が持っている雰囲気や品のいい声が、しおりを演じるにあたっていい作用をしてくれているんじゃないかなと感じたアフレコでした。
一郎としおりのキスシーンでしょうか。もしかしたら僕、キスシーンを監督として作るのは初めてかもしれません……。直球の恋愛ものを監督として担当するのはこれまでない経験で、一回やってみたいと思っていたんです。僕はもうおじさんになってしまったので(笑)、忘れかけていた感情を思い出しながら作り上げていきました。素朴で愛すべきふたりの恋愛模様は、作り手であっても見ていて楽しかったです。
また、ふたりにとって大事なクライマックスの「儀式」は、キャストもスタッフも気合が入って、とってもいいシーンになったと思っているので、ぜひ見ていただきたいですね。
原作もののアニメを作る上では、自分が感じた「原作の面白さ」を翻訳して、視聴者のみなさんに伝えることが必要だと思っています。すごく素敵な原作の魅力を、アニメでどこまで表現できているかは、ドキドキするところがありますが、なるべく魅力を伝えられるように一生懸命作っています。「おとなりに銀河」は見ていて幸せになれる物語だと思っていますので、ぜひ見てあたたかい気持ちになってもらえるとうれしいです!