シリーズ構成 市川十億衛門さんインタビュー
「おとなり」世界にどっぷり浸かった制作期間
まず思ったのが「なんてかわいらしい!」。しおりと一郎がピュアでウブ、そんなふたりの恋模様を「うまくいってくれ!」と応援するような目で読みたくなる作品だなと思いました。
簡単に言うと、「シナリオ部分の監督」のようなお仕事ですね。原作ものなら、何クール、何話で、原作のどこまでをアニメにするか。どこに山場を持ってきて、どんな最終話にするのか…とプロットという全体の設計図のようなものを考えます。その後、「各話ライター」と呼ばれる、話単位で脚本を担ってくれる方たちにシナリオを書いてもらいます。上がってきたシナリオを監督はじめみんなで協力しながらブラッシュアップしていって、どんどん面白くしていくことを目指します。
「おとなりに銀河」では、僕と森江美咲さん、ハシモトコーキさんの3人で脚本を書いています。それぞれ、得意分野や持ち味が違うので、「この方にはこういう話数をお願いしよう」と担当話数を振り分けるのもシリーズ構成の仕事の一部です。
作品の深いところに触れて、どっぷり入り込んでいけるところです。僕は他の作品で各話ライターをやることもあるんですが、そのときもそのときで作品に没入はしていても、やっぱりどこかで感覚が違っているんでしょうね。各話ライターの時はサッカーで言えばいいシュートを決めたいフォワードのような気持ちでいて、シリーズ構成の時は試合運びを考えるキャプテンや監督のような気持ちでいるかもしれません。
最初に打ち合わせをした際に、木村監督が「原作の魅力を視聴者の方に伝えたい」というお話をされていました。なのでとにかく原作を読み込みました! 漫画からアニメになるときに、どういう風になっていれば原作が持っている魅力が伝わるのか。漫画は自分のペースで読めるけれど、アニメはそうではない。原作を読んでいるときに感じるテンポをアニメで感じさせたいと、シナリオ会議でもよく話していました。
原作の流れはできるだけ変えないようにしているのですが、こうしたアニメでのテンポを作るために、少しシーンの順番が変わっていたり、新しく足されているシーンがあったりもします。増やしているのは、この作品が大事にしている「愛」の部分。しおりと一郎という男女の恋愛に加えて、まちとふみおという久我家の愛、しおりの家族や島民との愛がありますよね。特にしおりの父と母からの愛情の描写は、こだわったところのひとつです。
新たに追加する部分に関しては、言ってしまえば原作にないシーンやセリフなので、雨隠ギド先生に見ていただいたんです。そうしたら「このキャラクターだったら、この言い回しは、こういうものがいいかもしれません」といったありがたいフィードバックやアイデアをくださいまして。シナリオを担当しているスタッフみんなやりがいを感じますし、作品へのアプローチが間違ってなかったんだなとうれしく思いました。
僕たちの仕事は、言ってしまえばワードデータの段階で終了します。そこに声優さんたちが声というキャラクターの魂を吹き込んで、紙からだんだん立体になっていくようなさまを見ることができました。
みなさんの声を聞いたときに、原作を読んでいる時に感じていたイメージ通りでした。特に久我家3人としおりはすごくすてきなバランスで、彼らの初々しい雰囲気も表現されていると感じました。
まず1話で一郎がしおりに触れてしまったシーンですね。この作品らしい「宇宙」要素を大事したいと思っていて、一郎の運命が一気に変わる感じと、宇宙が広がる感じを、絵で表現することを目指しました。そしてクライマックスの、ふたりの愛が試される大きな試練のところは、おそらくいちばんハラハラドキドキするところなんじゃないかなと。…実はその話数、僕は書いていないんですが(笑)。ただ感性豊かなライターさんにお願いできたので、出来上がったアニメを見るのを僕自身楽しみにしています。
同時に、すごく身近なこともするのがこの作品なので、日常と非日常の落差を楽しんでもらいたいですね。しおりの性質に関して一郎としおりが実験するシーンなんかは、すごくかわいい。面白ほっこりポイントでもあるし、ふたりの魅力が出ています。…これも僕が書いてない話数です(笑)。
本作は、キャラクターみんながかわいらしくて、世界観がキラキラしていて、いろんな愛情に満ち溢れているんだけど、ちょっぴり不思議なお話です。そういう世界にどっぷり浸かって楽しんでいただけるとうれしいです!