美術監督 平良亜梨沙さんインタビュー
完成していくまでの道のり
本当にピュアだな、というのが第一印象でした。直球の恋愛もので、ハプニングが起こることもあるけれど、出てくるキャラクターはみんないい人。自分の気持ちを内に秘めてしまうところのある一郎と、ちゃんと見つけてまっすぐに伝えてくれるしおり。ふたりが交流を重ねていくうちに、自分の感情を伝えることを学んで成長していく様子にとてもキュンキュンしました。
背景美術という、キャラクターの後ろ側の空間を作っています。どういう場所で、どういう広さで、どういう小物が置いてあるかという「設計図」を、まず美術設定が作ります。その設計図を見て色や仕上がりの指針を決めるのが美術監督です。作品によっては、美術監督が設定から全部作る場合があるのですが、本作の場合は美術設定には外谷さんに入っていただいています。
できあがったものは「美術ボード」として、他のセクションのスタッフさんに渡していきます。一郎の部屋やアパートなど、背景や場面の分だけこのボードができていくイメージです。たとえば色彩設計の大塚さんは美術ボードを見ながらキャラクターの色を決めていってくれますし、背景マンは美術ボードを見て実際に背景を描いていきます。
背景がないと、キャラクターがどこにいるかわからない。背景があることで、キャラクターの置かれた状況を伝えることができますし、心理状況も描くことができます。見ている方にとっては「脇役」ではありますが、キャラクターの動きやセリフだけでは表現しきれない部分を補っているところに、背景美術というセクションの魅力を感じています。
木村監督からもらったリクエストは「水彩画風の柔らかい感じにしてほしい」。水彩画風というのは、デジタルでの塗りだとちょっと難しいんですね。さらに輪郭線を使わない背景にしたいという話もあったので、どう描くべきかをいろいろ水彩画のイラスト集やハウツー本を読み漁って落とし込んでいきました。今までやってきた作品とは少し方向性が違ったのもあって、この作品に求められている「リアルなんだけど、ふわっとした雰囲気で、雑ではない」というものを実現するために、調整がすごく難しかったです。
正直「描けないかも」と自信を持てなかった瞬間があったのですが(苦笑)、あがいて一生懸命ボードを出して、監督からOKをもらったところで、ようやく一息つきました。そこで手応えを得られて今に至っています。
ギド先生の色使いは、とてもきれい。ポップかと思えば実は彩度が低かったり、明るい印象だけど実はパステルや蛍光色ではなかったりと、言葉で表現しづらいけれど良い雰囲気がある色使いだと感じています。例えばしおりさんの髪の毛の影の色に黄緑色が入っていたりして、しおりさんの人間ではない感じ、神秘的な感じが表れているんだな…と気づいたときに「すごくいいな」と。ギド先生の表現方法を参考にしながら、本作の背景の影の色に緑を入れたりしています。
アニメの「主役」はキャラクターなので、背景はあまり目立っちゃいけないような気はしているんですが(笑)、1話で一郎としおりが出会う並木道は見ていただくと、ちょっとキュンとしてもらえるんじゃないかなと思います。背景もがんばりましたし、いろいろなセクションの力で出会いの感じがうまく出ているんじゃないかな。一郎くんの気持ちでしおりさんを見られるような、恋の始まりを感じるきれいなシーンに仕上がっています。
並木道は、実は最初に仕上げたボードの1つなんです。屋外で並木道、屋内で一郎の部屋をまず作ってがっちり決めてから、他の場所に取り掛かっていきました。それもあってひいき目もあるかもしれませんが、実際に出来上がったカットを見て「頑張ってよかったな」と感じたところです。
私もいち視聴者の気持ちで、仕上がっていきつつあるアニメを見ているのですが、原作に沿ってやりきっているなと感じます。やりとりがテンポよく進んでいくので、1話があっという間に終わります。背景については、原作のカラーページや表紙から色を拾ったり、漫画に映っていない部分をみんなで考えたりしているので、「こういう部屋なんだ」「こういう色なんだ」と思ってもらえるとうれしいです!