撮影監督 鯨井 亮さんインタビュー
みんなで作ったあたたかな世界観
まず雨隠ギド先生の絵柄ですね。ほんのりとしたタッチの感じが素晴らしい! アニメを担当させていただくことが決まったときに「映像に生かせたらいいな」と第一印象で感じました。お話の面では、1巻1巻で恋路がテンポよく進んでいくので、すんなり読みやすい作品だなと思ったのを覚えています。
アニメをよく見る方でも、「撮影」がどういうセクションなのかはなかなか知らないんじゃないでしょうか。撮影とは、それぞれ別セクションから上がってきた「作画」や「背景」を、「タイムシート」という組み立て説明書のような指示書に従って、PC上でひとつの「カット」にする、という工程です。指示書にはカメラの移動(パン)やズーム(アニメで言うトラックアップ、トラックバック)といった指示もあります。昔は本当にセル画を組み合わせて撮影していたのでこう呼ばれているのですが、今は基本的に全てPCで行われています。大きく言ってしまえば、みなさんに届く「最終的な絵を出力すること」が撮影です。
こうした基本に加えて、「おとなりに銀河」では、キャラクターへの「処理」も行なっています。たとえばしおりの髪の毛はグラデーションがかかっているんですが、これは撮影のタイミングで加えています。画面のコントラスト、エフェクト付け、色味調整、最終的なバランス整えなども行いますね。こうした撮影セクションを管理するのが撮影監督の仕事になります。
業界の中では「最後の砦」とよく言われますが、全ての素材が最終的に撮影のセクションに来るので、スケジュール的にも最後のほうではあります(笑)。ひとつの作品にたくさんの部分で関われるのでやりがいはありますが、同時に、撮影はアニメの最終的な出来栄えを左右できてしまうセクションであるので、怖いところでもあり、面白いところでもあると感じています。
「世界観を崩さない」ことですね。本作はどちらかというと明るいラブコメ寄り。とはいえあからさまにコメディらしい仕上げにすると、それはそれで「おとなりに銀河」らしさがなくなってしまう。やりすぎもよくないし、やらなすぎもよくない…という、バランスをとることが難しかったです。色味やコントラストもギド先生の淡い雰囲気を出せたらいいなと、全編通してバランスを考えました。
ただこれは、自分たちだけではなく、他のセクションも含めてみんなそれぞれ原作から受け取ったインスピレーションや「らしさ」が近かったと思うので、共有して絵作りに反映できたかなと思います。撮影セクションだけがバランスを取ったというより、それぞれのセクションから上がってきたものを受け取りつつ、できるだけ生かすことを考えたというのが近いかもしれません。
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全体的にほのぼのしていて、話しやすい雰囲気でした。美術やキャラクターデザイン、色彩設計などの部分でさまざまなスタッフの方に質問したり、中にはわりと無茶なリクエストを出してしまうこともあったりしたのですが(苦笑)、そういった相談をお願いしやすい、安心感のあるチームだったと思います。
本作は漫画がふたりの関係において重要な役割を果たすのですが、その漫画の表現がけっこう大変でした(笑)。作画で上がってきた素材を撮影で漫画風に加工して貼りこみ、漫画単行本を読んでいるアニメーションに仕上げるんですね。漫画がとにかく沢山出てくる作品なので、貼り込みの種類や量が多くて大変ではあったのですが、作品の肝の部分でもありますからがんばりました!
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やっぱり、しおりが出てくるシーン全般です(笑)。さきほどグラデーション処理の話もしましたが、彼女が突出して撮影の際の工程が多いんです。
あとは宇宙のシーン。「おとなりに銀河」というタイトルにもあるように、宇宙の表現にはひときわ力を入れたいと思っていました。それからしおりの棘は、原作のコマにあることはできるだけエフェクトで再現したいし、アニメならではの表現もしたいねということで、光らせたりしています。
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スタッフ一同、原作の雰囲気を崩さず、暖かくほんわかした作品に仕上げようと制作を進めています。1話1話、恋のドキドキポイントがあって、ストレートにふたりの恋愛模様を見てもらえるような作品です。恋をしている人もしていない人も、また恋をしたくなるような、甘酸っぱいドキドキを楽しんでいただけたらと思います。